バセドウ病

この病気をみつけたバセドウ(Basedow)という医師の名前がこの病名の由来です。バセドウはドイツ人ですが、他にグレーブス病、パリー病などとも呼ばれます。英語圏ではグレーブス病の方がよくつかわれます。

バセドウ病は甲状腺が甲状腺ホルモンを必要以上につくるようになってしまう病気です。自己免疫現象という異常が患者さんのからだの中でおこり、そのためにふつうならからだにない、TSH受容体抗体という異常物質がつくられるからです。このTSH受容体抗体によって甲状腺が無理矢理にはたらかされ、必要以上の甲状腺ホルモンが血液の中にふえてくるために、いろいろな症状がでてくる病気がバセドウ病です。

なぜTSH受容体抗体がつくられてしまうのかはまだよくわかっていません。甲状腺ホルモンがからだのなかで必要以上につくられてしまう病気のことを甲状腺機能亢進症といいます。日本ではその9割以上はバセドウ病が原因です。

甲状腺ホルモンはからだの新陳代謝を調整するホルモンなので、多すぎることによって心臓は脈を速くうち(頻脈)、皮膚は汗をたくさんつくり(多汗)、食べても食べても太らないという状態になります。暖房装置についているサーモスタットが故障して、部屋の温度がどんどん上がってしまうのに似ています。

甲状腺ホルモンのおよその量を測れるようになってから40年くらいたっていますが、それ以前にはいろいろな方法で新陳代謝の測定をして、バセドウ病の診断をしていました。さらにそういった検査もない昔は、症状から診断するしかなかったのです。

バセドウ病の症状として有名なものにメルゼブルグの三微(さんちょう)というのがあります。これは甲状腺が腫れていて眼が出ていて脈が早いという三つがそろっているもので、典型的なバセドウ病の症状が出そろっていると考えてよいものです。メルセブルグの三微のあるバセドウ病は、発病してからある程度時間がたっているものが多く最近ではあまりみることがなくなってきています。しかし三つがそろっていなくても、どれか一つがあれば、血液検査を受けて甲状腺ホルモンの量を測ってもらうのがよいでしょう。

(赤須文人著 甲状腺の病気とつきあうQ&A  講談社より)